読書にほとんど時間が割けず、相変わらず先へなかなか進まないが、"Netherland" は随所にあれこれ考えさせる文言があって面白い。その点、Patrick Gale の "Notes from an Exhibition" とは対照的だ。あちらは当初、構成がしゃれているのと、謎めいた主人公が実際はどんな人物だったのかという点に釣られたものだが、それは結局、文芸エンタメ系のノリだった。つまり、人生の厄介な問題とはほとんど関係なく、ストーリーの面白さが主眼となっていたのだ。
もっとも、この "Netherland" も「人生の厄介な問題」を本格的に採りあげているわけではない。今のところ、本書を読んで意外な真実を知り、知的興奮を覚えるということはあまりない。ただ、主人公は妻と別居して精神的危機におちいり、もがき苦しんでいる。それが回想形式で綴られているからには、当然いつかその危機から脱したわけだが、そのきっかけは何だったのか。考えようによっては、それだけでも充分、「人生の厄介な問題」と言えるかもしれない。
そういう作品のせいか、本書は「随所にあれこれ考えさせる文言があって面白い」。たとえば、9.11テロ事件のあと、街の復興に取り組んだ人々にとって、当時は「人生で最も楽しい時代のひとつだった」という。「あの大惨事は、多くの人々に大きな喜びをもたらしたのだ」と。
不謹慎な話にも聞こえるが、たしかサルトルも第二次大戦中をふりかえり、同じようなことを書いていたはずだ。人生の目的にあふれ、充実した毎日。それは平和な時代には容易に実現できないものかもしれない。戦乱や混乱の時期にあってこそ使命が生まれ、その使命を果たそうとすることが大いに楽しい。
写真を見ると Joseph O'Neill はまだ若い作家だが、どうして人生経験が豊富のようで、文章のはしばしから熟練の味が伝わってくる。これぞまさしく純文学である。