どういうわけかアマゾンで発売が遅れていた Jhumpa Lahiri の "Unaccustomed Earth" のペイパーバック版がやっと手元に届いた。すでに翻訳も出ていて、日本でも好評のようだ。そんな作品は正直言ってあまり食指が動かないのだが(それゆえ未読の名作が山積)、いくらへそ曲がりでもジュンパ・ラヒリの新作を読まずにいるのは余りにもったいない。
まだ最初の2編しか読んでいないが、世評どおりの出来ばえである。表題作は、妻を亡くした老父が娘の家に1週間泊まったときの話。処女短編集の "Interpreter of Maladies" を読んだのはずいぶん昔のことなのでうろ憶えだが、たしかアメリカ社会に住むインド系住民の苦労が描かれていたのでは…。それに較べ、この中編はインド人ならではのエピソードもあるものの、むしろどこの国の話であってもおかしくない。父娘それぞれの視点から同居の問題を中心に、夫婦や親子の衝突と和解の歴史、亡き妻、母の思い出、お互いの心の変化や立場の相違を通じて、家族の愛情の重みがずっしり伝わってくる。老いた父親と娘の幼い子供のからみが日常茶飯の光景なのに胸を打つ。ぼくもこれを読みながら、両親やかみさん、子供たちのことを考えずにはいられなかった。
2つ目の短編もいい。これも同じくインド系住民ならではの背景を活かしながら、今度は恋愛感情の重みがテーマ。伝統的なインド人とアメリカナイズしたインド人の対比という異文化の問題も見られるなど、上の中編よりはエスニック色が強いが、最後のワンセンテンスが示すように、やはり人間としての普遍的な感情が心に迫ってくる。淡々と進む話を追いかけているうちに最後、ぐっと胸を締めつけられる、というのがこの2編に共通するパターンだろう。あと、どちらも社会的地位の高いインド人の家庭の話。2つ目には移民としての苦労話も出てくるがテーマではない。