ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Olive Kitteridge" 雑感(4)

 今日もぐったり疲れた。電車とバスの中で少しでも読もうと思ったが、目がしょぼついて全然進まず、家に帰って何とか2話だけ読みおえた。
 第8話 "Tulips" と第9話 "Basket of Trips" で Olive が連続して主役だったので、ようやく長編らしくなるのかと思ったら、第10話 "Ship in a Bottle" では一転、またもや新しい人物が主人公。結婚式当日、相手の男に結婚の解消を申しわたされ、以来ふさぎこんでいる若い娘の話。娘は Olive の教え子で、この話は Olive がまだ中学の教師だった時代にさかのぼる。本書の特色のひとつは深く静かな哀調にあるが、これは久しぶりに「純粋な生の充足を求めようとする願い」を描いたもの。若い娘がその昔聞いた Olive の言葉を思い出して積極的な行動を起こす。典型的な短編小説の展開だが、それほど鮮やかな出来ではない。
 第11話 "Security" で Olive は主役に復帰。時代設定としては第9話の続編で、夫が脳卒中で倒れたあとの Olive の人生を描いたものだが、第1話 "Pharmacy" の補足と言える要素もある。が、「まるで海の底のように深い思いが流れてい」た最初の物語と異なり、ここでは終幕、親子が本音をぶつけ合い、火山の噴火のような激しい感情が爆発する。Olive の性格づけが見事で、彼女の心の中には深い愛情と強烈なエゴが渦巻いている。気性が激しく、おのれの主張を枉げず、周囲に恐れられる存在でありながら、過敏とも言えるほど繊細な感情の持ち主で傷つきやすい。同じひとりの人間の中にある矛盾した要素を描いている点で、Elizabeth Strout はまさしく第一級の作家である。