ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Strout の "Olive Kitteridge"(1)

 ピューリッツァー賞の新しい受賞作、Elizabeth Strout の "Olive Kitteridge" を昨日読み終えたので、1日遅れだが、いつものように今までの雑感をレビューにまとめておこう。

Olive Kitteridge: Fiction

Olive Kitteridge: Fiction

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[☆☆☆☆★] アメリカ東部メイン州の海に面した小さな町を舞台に、元中学教師の老婦人オリーヴ・キタリッジとその夫、教え子、知人など町の住民が交代で主役をつとめる連作短編集。どの人物のことばや行動にも深い感情が凝縮され、ときに織りまぜられる海の景色でさえ感動的な心象風景となっている。切りつめた会話、静かに抑制された描写、やがて聞こえる心の叫び。男と女が出会って別れ、夫と妻が衝突し、親と子がいがみあい、長年連れ添った伴侶が病に倒れ死んでいく。どれもよくある話だが、心のひだを細かく織りなしていくような筆致に説得力があり、人生の悲哀と苦悩、ストイックな感情、ほとばしる激情がありありと伝わってくる。とりわけ主人公オリーヴの性格設定が秀逸で、彼女の心には深い愛情と強烈なエゴが渦巻いている。気性が激しく、おのれの主張を枉げず、周囲に恐れられる存在でありながら、過敏とさえいえるほど繊細で傷つきやすい老婦人。そんな彼女が孤独と沈黙の世界で胸のときめきをおぼえる最後の物語は、海の底のように深い思いをたたえた第1話と並んで、本書の両端を支えるにふさわしい絶品。人間性の矛盾を柱とした点で、エリザベス・ストラウトはまさしく第一級の作家である。