Marilynne Robinson の "Home" をぼちぼち読んでいる。去年の全米図書賞、今年の全米書評家(批評家)協会賞と落選続きだったが、周知のとおり今年のオレンジ賞を受賞、めでたく三度目の正直となった。ちなみに、Aleksandar Hemon の "The Lazarus Project" も落選続きだが(未読)、こちらは男性作家ということでオレンジ賞の対象外。男の作家に授けるバナナ賞でもあるといいのにかわいそう…。
Robinson が受賞を逃した全米書評家協会賞だが、ぼくがレビューらしきものを書いた最近の受賞作に限っても、"The Known World"、"Gilead"、"The Inheritance of Loss"、"The Brief Wondrous Life of Oscar Wao"、そして "2666" と錚々たるラインナップ。アメリカの三大文学賞の中ではいちばん高水準を保っていると思う。
同賞の今年の候補作を読むのは、受賞した "2666"、今年のピューリッツァー賞を取った "Olive Kitteridge" に続き、この "Home" で3冊目だ。まだ途中までしか読んでいないので断定はできないが、今のところ、"2666" の受賞はきわめて順当で、"Home" は3番目の出来かなという気がする。
上に挙げた Robinson の前作 "Gilead" と較べても、途中ながらやや落ちる。舞台は同じアイオワ州ギリアッドの街で、死期の迫った老牧師が登場する点も同じ。"Gilead" はその牧師が幼い息子宛てに長大な手紙を書くという設定で、話としては地味だが、牧師の息子を思う気持ちが冒頭から切々と伝わってきて、時間があればじっくり読み直したいほどだ。
この "Home" の主人公は牧師の娘で、38歳にもなって父の家に帰ってくる。その事情は薄々察しはつくのだが、直接的にはまだ言及されていない。フィアンセがいて、5年間も婚約していたのに結婚には至らず…といったところが伏線のようだ。
一方、娘の兄も帰郷。こちらはなんと20年ぶりで、この兄は幼いころから一家の異端児で放蕩息子。妹と同じく、帰郷の理由はまだ明示されていない。結婚を申し込んだ女性がいるが不首尾で、心の救済を求めているらしい。
文体は緻密そのもので、親子、兄妹の愛情がじっくり綴られるのは Robinson の真骨頂だが、かなり地味な展開だ。二人の帰郷の理由が物語の核心にあり、それが少しずつ明らかにされるにつれ面白さを増しそうな気がする。が、今はまだその何歩か手前ということで、今後に期待しよう。