ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Belong to Me" 雑感(5)

 たしかに本書は、「いろいろな食材をうまく混ぜ合わせておいしく料理し」た「ごった煮小説」である。ひとつひとつのエピソードやテーマはありきたりで、その点だけ見ると「三文小説そのものと言ってもいい」のに、それが「さながら日替わりランチのように出てくる」おかげでかなり楽しい。
 が、本書の美点はそれだけではない。ぼくのようにカタツムリのごとくノロノロ読んでいても面白いのは、たとえテーマは「ありきたり」であっても、それぞれの場面に出てくる人物の心情がストレートに綴られ、嘘いつわり、「宣伝臭さ」がまったくないからだ。
 むろん、ここに流れているのは本質的には人間の善意、愛情、要するにヒューマニズムである。だが、それを手放しに賞賛するのではなく、また読者に説教を垂れるわけでもなく(「宣伝臭さ」がないとは、そういう意味だ)、ごく自然に共感を覚えさせるようなセリフ、エピソードをさりげなく盛り込んでいる。そこがうまい。
 たとえば、妻が病死し、二人の子供をかかえた男と、夫が家を出て行き、同じく子供を二人かかえた女がいる。この男と女がいずれ結びつくという予想は立てやすいが、その予想とは別に、女が軽薄な隣人たちから「口撃」を受けたとき、主人公の Cornelia がこれを舌鋒鋭く撃退、二人の友情が固まるというくだりがある。ホロッとする話で、ああ読んでよかったな、と爽やかな気分になる。本書はそんなエピソードの連続だと言ってもよい。
 …こういうタイプのヒューマニズムについては、もう少し述べたいことがあるが、それはまた後日。