ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“A Sudden Country” 雑感(6)

 ぼくは何しろ文学ミーハーなので、表紙が印象的な本だとすぐに飛びついてしまう。青空と砂漠?を背景に馬上の男を描いたカバーの本書もそうで、手に汗握る冒険小説を期待して読みはじめた。が、フタをあけるとまず惹きつけられたのは、19世紀中頃のアメリカ西部が舞台のラブロマンス。
 映画における西部劇との決定的な違いは明らかだ。ここには男と男の決闘がほとんどない。胸のすくようなカッコいいヒーローも、顔つきからしていかにも悪党らしい悪党も出てこない。たしかにヒロインは登場するが、ヒーローとの関係は(美しくはあっても)微笑ましいとは言えない。
 ただ、荒野を幌馬車隊が進むうちに起こる出来事が大半なので、土の匂いのする汗くさい世界ではある。何人か人が倒れ、食糧問題も生じるなど、過酷なサバイバル物語の様相も呈する。冒頭、男が熱にうかされた幼い娘をかかえて雪原を行く場面もしかり。愛する者のために自分が犠牲となり苦難に耐える。夫と断絶しながら幌馬車隊に残った女も、愛ゆえに忍耐の日々を送る。この荒野を移動する一連のエピソードはかなりリアルで、いわ西部劇の裏話を読むようだ。これが本書の売りのひとつであることは間違いあるまい。
 こうしたリアルな西部劇の根底に流れているのが、どうやら愛のようである。