ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Visible World" 雑感

 久しぶりに帰省。どうもノリが悪くて中断していた Mark Slouka の "The Visible World" を飛行機の中で改めて読みはじめたら、だんだん面白くなってきた。去年の Richard & Judy's Book Club 推薦図書の一つである。積ん読の山を少しでも切り崩そうと手に取った次第だ。
 全体は3部構成で、第1部はアメリカ在住のチェコ系移民の回想。両親がニューヨークに住みはじめた第二次大戦直後から比較的最近まで、ほぼ40年間の話が時系列を無視してあちこちに飛ぶ。が、焦点はナチス・ドイツ占領下のチェコで起きた悲劇にあり、その当時、母親にはどうやら父親以外に好きな相手がいたらしい。それが後年、母親の心に重くのしかかる。
 …と思わせぶりなヒントが少しずつ示されるのだが、ここではまだ詳細は不明。むしろ、筆者の子供時代のノスタルジックな思い出のほうに紙幅が多く割かれている。このあたり、ちょっとモタモタした感じだが、父親が目撃した大量処刑の模様などが描かれる後半ほど快調。
 第2部では、筆者が母親の謎を解こうとプラハなどを訪れる。謎は謎のままだが、旅先で出会った人々の戦争体験が心にしみる。
 今は第3部を読んでいるところだが、ここはかなりいい。どうも第二次大戦中の悲恋ものらしいのだが、「よくある話」の一言で片付けたくない切なさがある。映画『離愁』だって、最終場面のロミー・シュナイダーの顔を思い出したら胸が張り裂けそうになる。あれと同じことだ。