今日も仕事に追われたが、何とか雑感の続きを書けそうなところまで読み進んだ。で、遅まきながら気がついたのだが、本書は3部構成。第1部と第3部では平社員の目を通して広告代理店の社内風景が描かれている。それが本書の大半を占め、第2部は40ページ足らずで共同経営者の女性 Lynn の内的モノローグ。
このモノローグはよくある「意識の流れ」タイプで、内容もさほど目新しいものではない。乳ガンの手術を翌日に控えた Lynn は、長年つきあいながら結婚の見込みのない男のことを考えながら、乳房にしこりを発見してから診察までのいきさつなどを回想する。不安と焦燥、絶望、孤独感に襲われて過ごす一夜。結局、真夜中に会社に戻り、明け方まで仕事をしてから自分のオフィスを掃除。手術は受けないことにする。
つまり、第1部でゴシップのひとつだった Lynn の「乳ガン騒動」を本人の立場から説明したものだが、この中間部が挿入されることにより、すでに見え隠れしていた社員たちの「自分を見失わないように懸命にがんばっている姿」がいっそう鮮明になったと言える。
事実、第3部に入って再びコミカルな井戸端会議が始まるものの、そこには書中の言葉を引用すれば「実存の危機」も読みとれる。広告のアイデアが浮かばない悩み、解雇の不安、集団の中で自己を保とうとする努力、解雇者の怒り、対人関係のもつれ…。サラリーマンなら誰しも感じるストレスやフラストレーションがファースに近い形で描かれている。「お互いに何気ない一言でイヤな思いをしているが、波風を立てないように我慢し合っている」――そうそう、そうなんだよなあ。