ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Inness-Brown の "Burning Marguerite"

 帰省休み明けの今日は仕事に追われ、ほとんど本が読めなかった。そこで昔のレビューでお茶を濁しておこう。3年前、「雪と炎のシャーベット」と題してアマゾンに投稿、その後削除したものだ。

Burning Marguerite

Burning Marguerite

[☆☆☆★] 上質のメロドラマでかなり楽しめる。冬の朝、94歳の老女が雪の中に倒れて死んでいる冒頭場面がとても印象的。そこから物語は二つの視点に分かれ、一つは三人称で、幼いころから老女に育てられた男の失恋の思い出や、現在進行中の恋愛話など。もう一つは一人称で、老女が男の育ての親となったいきさつや娘時代の恋物語など。どちらにしても、それぞれのエピソードが手際よく紹介され、決して飽きることがない。とりわけ、老女が昔から秘めてきたいくつかの秘密が少しずつ明かされ、冒頭の雪の場面を想起させながら、表題の「炎」の場面へと移っていく終盤の展開は秀逸。本書はこの作家の処女長編ということだが、その小説技術は新人離れしている。あえて注文をつければ、まるでシャーベットでも食べているようにすいすい読んでしまい、やや深みに欠ける印象がある。その根本原因について考えることも読書の醍醐味なのではないだろうか。英語は準一級程度で、電車の中で読むのにもってこいだ。