ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joshua Ferris の "Then We Came to the End"

 07年の全米図書賞候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙の年間ベスト作品にも選ばれた Joshua Ferris の "Then We Came to the End" をやっと読みおえた。今までの雑感のまとめに過ぎないが、さっそくレビューを書いておこう。

Then We Came to the End

Then We Came to the End

[☆☆☆★★★] レイオフの嵐が吹き荒れるシカゴの広告代理店が舞台のサラリーマン小説。ゴシップでにぎやかな社内風景が大半を占めるのに、優れた文学作品として仕上がっている点にまず感心した。主人公はいないが数名の主な人物が登場、その生態が平社員の目を通してコミカルに、時にはしんみりと描かれる。解雇された社員は怒り、泣き崩れ、あるいは平然と受けとめ、残った社員は戦々恐々。ミスがないように努め、厄介な広告作りに励む。が、仕事の話題はむしろ二の次で、家庭生活をだしにしたゴシップや、社員同士の私的な交流を通じて、それぞれ会社の中で一人の人間として自己を確立しようと悪戦苦闘する姿が次第に浮かびあがってくる。その典型例が中間部に挿入された、乳ガンの手術を前日に控えた女性共同経営者の内的モノローグ。彼女がいだく不安と焦燥、絶望、孤独感は、一般社員がレイオフによってさらされている「実存の危機」と本質的に同一のものだ。解雇された社員がピエロに扮して会社に押しかけ、おもちゃの拳銃をふりまわすエピソードなどはドタバタ喜劇の極みだが、本書の笑いには哀感が混じっている。元の同僚たちが集まって昔を懐かしむ後日談も泣かせる。おかしくて、やがて哀しきサラリーマン人生かな。英語の語彙レヴェルはやや高いが、難解というほどではない。