ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Tunneling to the Center of the Earth”雑感

 ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』とよく似た題名だが、あちらの英訳タイトルは "Journey to the Center of the Earth"。本書は表題作の短編をふくむ Kevin Wilson の短編集で、去年のアレックス賞受賞作の一つである。
 周知のとおり、今年のアレックス賞は最近発表されたばかりだが(http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/yalsa/booklistsawards/alexawards/alexawards.cfm)、なぜ今ごろ去年の作品かと言うと、今年のリストをながめているうちに、去年は一冊も読んでいなかったことに気がついたのだ。そこで急遽、適当に勘を働かせてまず注文したのが本書という次第。
 するとうれしいことに、これは今のところ、なかなか粒ぞろいの短編集だ! ちょっと変わったシチュエーションが共通項かもしれない。たとえば第1話の主人公は「代理祖母」。核家族社会のもとで増えた祖父母のいない子供に祖父母とふれあう機会を与えたい、という親の要求に応じた会社に雇われている老婦人で、今までもっぱら、急死した祖母などの代理をつとめてきたが、今度はなんと、まだ生きている祖母の代わりになってくれという。引き受けた当初は順調だったがやがて…。最後は「ちょっといい話」で終わり、ハッピーな気分になれる。
 このあとも、両親が自然発火で爆死した若者が自分もいつか爆発するのでは、と思いつつ間借り先の娘に恋をしたり(第2話)、アメリカ人と結婚した日本人の母親の死後、その遺書の規定どおり、千羽鶴を折ってテーブルに積みあげ、扇風機を回して最後にテーブル上に残った千羽鶴を折った息子が屋敷を相続する、というケッタイなドタバタ劇(第4話)などが続く。いずれも主人公の切実な心情が最後に伝わってくる「ちょっといい話」ばかりだ。
 第6話の表題作もそうで、大学を卒業したばかりの男女3人が就職もせず、ある日突然、主人公の家の庭に穴を掘りはじめる。最初はどんどん縦に掘り進み、やがて横にトンネルを掘り、それが街中の地下トンネル網となり、地下室を作って寝泊まりし…という、これまたケッタイな物語。しかし最後は、青春小説らしいほのかな幸福感が味わえる。まったく知らない作家だったが、なかなか腕達者ですね。