今年のアレックス賞受賞作のうち、すでにペイパーバック化されているのは既読の3冊くらいのものなので、今度は先月読んだ "Tunneling to the Center of the Earth" に続き、去年の受賞作の一つ、Peter Rock の "My Abandonment" に取りかかった。これでもう、今年の分はよほど評判にならないかぎり縁がないだろう。ペイパーバック・リーダーの悲しい定めである(ハハ)。
"Tunneling...." の雑感で書いたように、去年の受賞作はうっかり読み洩らしていたので、今回は落ち穂拾いの第2弾。本書を選んだ理由はやはりペイパーバックが出ているからで、加えてシノプシスを斜め読みした結果、何か心に引っかかるものがあったはずだが、入手したときにはすっかり失念。おかげでまた、知らない作家の知らない作品とまったく白紙の状態で接することになった。その楽しさは有名作家の評判作の比ではない。
"Tunneling...." は短編集なので今年の受賞作3冊と "My Abandonment" を較べると、一つの共通項が浮かびあがる。いずれも冒頭ないし早い段階から異常なシチュエーションが提示されていることだ。本書の場合、主人公の13歳の少女は父親と一緒になぜか、郊外の森林公園の中で寝泊まりしている。斜面に穴を掘りシートで覆った小屋が住まいだが、どうやら一ヵ所だけでなく公園内を転々としているらしい。
しかも、親子は細心の注意を払って自分たちの生活の痕跡を隠し、人目を避けている。接触があるのはほとんど、公園内にいるほかのホームレスたちだけ。日用品を買い出しに市内へ出かけることもあるが、身分はもちろん隠している。父親は元軍人で、政府から手当を支給されているという話だが、ほかに収入源はない。
そんなミステリアスな設定だが、少女の一人称一視点から描かれる「野生生活」には夢でも見ているような雰囲気があり、わけがわからないのにとても魅力的だ。少女はまた、おもちゃの馬を本物のペットのように可愛がっていて、それだけでもう少女にいとしさを感じてしまう。
たまたま少女を見かけたランナーの通報で2人は警察に保護されるのだが、何しろ親子は外部との接触をずっと避けてきたので、その保護にいたる経緯にはサスペンスがあり、これまたよくわからないまま、どうか「捕まらないように」と思ってしまう。
…というのが第1章の粗筋と感想で、じつはもう第4章に入ったところなのだが、とにかくこれはクイクイ読める面白い小説だ。