本書を手に取った理由は結局、今年のアレックス賞受賞作のうち、現在すでにペイパーバック化されているもの、ということだったようだ。この作品の前に読んだのがホラー小説で、今回はSF冒険小説。去年読んだ "Room" が一種のミステリだったので、さすがはアレックス賞。いろんなジャンルに目が行き届いていて、かつ、どれもかなり水準が高い。
で、これはタイトルどおり、「生まれつき眠れないし眠らなくてもいい」という「一種のミュータント少年」を起用している点がミソ。そのアイデアから本書の独自性と readability が生まれている。たしかに「セックス、ドラッグ、恋の鞘当てなど、高校生活を彩るさまざまな要素」もあって楽しいのだが、それだけなら「ありきたりの青春学園小説」にすぎなかっただろう。そういう意味ではアイデアの勝利と言える。
ただ、「眠れない人間という設定はたしかにユニークだが、そこにどんな深い意味があるのだろう」という、読んでいる途中にいだいた疑問が完全に消えたわけではない。その昔、誰の発言だったか忘れたが何かの座談記事で、「普通の小説で十分表現できる内容なのに、なぜSFという形をとらなければならないのか」という趣旨の反SF論を読んだことがある。「アイデアの勝利」は認めるものの、本書についてもこの「反SF論」が当てはまりそうな気がする。
とはいえ、雑感にも書いたとおり、これがSFであると同時に、「『トム・ソーヤーの冒険』あたりを鼻祖とする、2人の少年の冒険物語」であることも間違いない。その少年たちがオタク族で、小心者のくせに好きな女の子とあっさり関係したり、ドラッグやロックの生演奏など現代の風俗を取り入れたりしている点こそまさに現代的だが、本質的には大昔の少年冒険小説と大して変わらない。この年になっても大人になりきれていないぼくは、そこがとてもなつかしく、また大いに楽しかった。