ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“South Riding”雑感(3)

 このところ超多忙でブログも本書もずっとサボっていたが、昨日ふたたび取りかかり、ようやく後半に突入。当初の直感どおり、これはもっとヒマなときに読むべき本でしたね。超大作というほどではないにしても何しろ長いし、ローカル・ピースとあってペースは緩慢。正直言って、かなり退屈です。
 ところが、そんな本書がイギリスではかなり「大衆受けのする作品」のようだ。「その人気の秘密は何なのだろう」と考えながら読んでいるのだが、ひとつにはたぶん、ここにはイギリス人の原風景が広がっているからではないかと思う。「原風景」とは、たんに自然環境だけでなく、小さなコミュニティにおける人間模様もふくめたもので、登場人物は身分の上下がいくらかあるとはいえ、基本的に市井の人々だ。ヨークシャーの小さな町が舞台で、いちおう主人公らしい女子高の女校長をはじめ、その理事も兼ねている市会議員、といっても本職は農場主や不動産屋など。ほかにも宿屋の夫婦、舞踊演劇教室の女経営者、貧民街の住人、そして女子高生たち。すべて大半の読者と何ら変わらない等身大の人物ばかりである。
 描かれる出来事も日常茶飯の身辺雑事に近い。ある説教師が若い娘と関係し、それをネタにゆすられる。新道建設の話が持ちあがり、不動産投機をめぐっていろいろな駆け引きがある。優秀な生徒なのに家庭の事情で学校に出席できず、親に代わって幼い子供たちの世話をしなければならない。…どのエピソードもまずまず面白いが、何だ、よくある話じゃないかと思ったとたん眠くなってしまう。
 教育熱心な女校長が生徒指導はもちろん、施設の改善や問題教師たちの指導などに取り組み、分からず屋の理事たちの説得に当たる話がいちおう柱のようなのだが、この柱、まわりの副筋が多すぎてどうも主筋らしくない。まるで田舎の井戸端会議を次から次に聞かされているようで、イギリス人にはとても楽しいのかもしれないけれど、要するにどうでもいい話ばかり。早く片づけたいのだが、一向にペースが上がりません。ちょうど今、女校長が敵対する理事といい関係になりそうなくだりなので、これに期待しましょう。