相変わらずカタツムリ君だが、何とか頂上が見えるところまでたどり着いた。これ、ページ数としてもかなり長いが、それ以上に長く感じられる、ほんとにシンドイ小説だ。
その最たる理由のひとつは、山場が少ないからではないかと思う。後半に入ってまずまず引きこまれる場面も増えてきたものの、派手な演出は皆無と言ってよい。この悠然としたペースがいかにもローカル・ピースらしく、それが一定の魅力を放っている点は認めるのだが、もう終盤だというのにぼくはまだ、その魅力のとりこになっているとは言いがたい。
盛り上がりに欠けるのは、何人かの主な登場人物にまつわるエピソードが交代で少しずつ進む物語形式にもよる。その分量はほぼ均等で、ぼくは前回まで女子高の女校長を「いちおう主人公らしい」と考えていたが、ほんとうにそうなのかな、という気がしてきた。じつは「小さなコミュニティにおける人間模様」を織りなす各人がすべて主人公であり、その意味でこれは、まさしくローカル・ピースとしか言いようのない小説なのではないか。そしてその「人間模様」が、イギリス人にはたまらなく懐かしい「原風景」なのかもしれない。
一例を挙げると、田舎の道を走っていたバスの前輪が溝に落ち、バスは急停車。すると、乗り合わせていた男が自慢の歌声を披露し、バスが止まった拍子に男にしっかり抱かれた女が心を奪われる。男は妻に先立たれ、大勢の子供をかかえながら失業中。女も未亡人。
このくだり、「まずまず引きこまれる場面」のひとつだと思うのだが、一事が万事、とにかくほとんど「日常茶飯の身辺雑事に近い」話ばかりで、この「原風景」を味わうのは「ほんとにシンドイ」ものです。