ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Memory of Love”雑感(2)

 今年のオレンジ賞を受賞した Téa Obreht の "The Tiger's Wife" は大変評判がよく、ネットで検索してみると、早くもアメリカの2011年ベスト10に選んでいるサイトもあるほどで、ペイパーバック版が届くのが楽しみだ。このベスト10にはどういうわけか、未刊行の作品もふくまれているところが面白い。今すぐ、もしくは近いうちにペイパーバックで読めそうな David Foster Wallace の "The Pale King" と、Ann Patchett の "State of Wonder" をさっそく注文しておいた。"The Pale King" は作者の死により未完とのこと。
 さて "The Memory of Love" だが、昨日も書いたように、ぼくはこの小説の static な味わいがとても気に入っている。舞台の地名が本文にやっと出てきた。シエラレオネフリータウン。年老いた大学教授 Elias が病室で、精神科医の Adrian を相手に30年前、1969年の出来事を回想している。大学の同僚の妻に恋をした話だが、感情を抑えた場面がつづき、まだ特に進展はない。static なゆえんのひとつだ。
 一方、それと平行して現代編では Adrian にくわえ、同じ病院に勤める外科医の Kai の物語も始まった。それを通じて、激しかった内戦のようすが少しずつ紹介されるが、政治的な内容への発展はない。学生時代の恋人の話が出てきて、何やら思い屈している風情があり、これまた static な雰囲気を醸成している。
 Adrian も物静かな人間だ。イギリスに妻をのこし、1年契約でフリータウンの病院に勤務しているが、交流のある同僚は Kai だけ。Elias の回想につきあう一方、市内の精神病院に入院中の女性患者の症状に興味をもち、何度か面接を試みているが成果はない。
 どの話もまだ序の口で、だから static なのだとも言えるが、Elias だけでなく、ほかの2人も回想にふける場面があり、水底に静かに沈んでいるような感情を汲みとることができる。これからドラマティックな展開になるのかもしれないけれど、こういう静寂はほんとうにいいなあ。