ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2011年全米図書賞ショートリスト発表 (The 2011 National Book Award Finalists)

 オレゴン州の現地時間で12日、今年の全米図書賞の最終候補作が発表された。小説部門のリストを見ると、うれしいことに、ぼくが今年の上半期マイ・ベスト5に選んだ Tea Obreht の "The Tiger's Wife" もノミネートされている。
 残念なのは、ひそかに期待していた Ann Patchett の "State of Wonder" が外れたこと。してみると、この賞はやはりゲージュツ作品が対象ということなんでしょうな。"The Tiger's Wife" 以外はどれも未読だが、米アマゾンでざっと検索したところ、Julie Otsuka の "The Buddha in the Attic" がレビュー数54で星4つ。あとの作品も評価は高いがレビュー数は少ない。
 ともあれ、Obreht が栄冠に輝くことを期待しよう。以下のレビューは再録で、点数は急遽、読んだときのことを思い出してつけたものです。点数の意味は、故・双葉十三郎氏の『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』に準じています。

The Tiger's Wife: A Novel

The Tiger's Wife: A Novel

Tiger's Wife

Tiger's Wife

[☆☆☆☆★] 生と死を結び、現実と非現実を重ねあわせることで生まれる不思議な世界を描いた秀作。旧ユーゴが舞台なので、東欧マジックリアリズムの誕生を告げる作品と言っていいかもしれない。「虎の妻」にしても「不死身の男」にしても、本書の核心をなす物語は、いくつもの伝説や説話などを織りまぜたようなフォークロアの色彩が強い。その圧倒的なストーリーテリングにまず魅了される。これは相当に面白い。が一方、主人公の若い女医が、亡くなった祖父の物語るフォークロアの世界へと踏みこんでいくうちに、紛争によって分断された国家の現実、消えた統一国家という「幻の現実」も浮かびあがる。そういうドキュメンタリー・タッチが混じって粛然となったかと思うと、女医が訪れる祖父の生まれ故郷や死んだ町などでは、非現実的な夢のような世界が待っている。このコントラストがじつに鮮やかだ。また一方、女医が祖父の物語を追いかけることは、亡き祖父の人生を検証、追体験すると同時に、その死を悼む行為でもある。怪奇実話なみに面妖な物語の底に、じつは哀感が流れているのだ。それが消えた国家への哀惜の念と重なる点がみごと。ともあれ、ここには生と死、そして現実と非現実の融合が認められる。その端的な例が「虎の妻」であり「不死身の男」である。マジックリアリズムのゆえんだが、それはユーゴスラビア紛争という悲劇が生みだした、まさに東欧独自のものではないかと思われる。国家の歴史と運命を背景にしたマジックリアリズム小説の誕生に絶大なる拍手を送りたい。英語は平明で、ときに難易度が上がるものの総じて読みやすい。
The Sojourn

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