ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Beryl Bainbridge の “Every Man for Himself” (2)

 以前にも書いたとおり、Beryl Bainbridge の訃報を知ったのは、恥ずかしながら今年になってから。2月ごろ、アマゾンUKで彼女のブッカー賞落選作が特集されていた。そのときもっと調べていれば、Man Booker Best of Beryl という、落選作のベスト1を一般読者の人気投票で決める企画が始まっていたことに気づいていたはずだ。
 そうとは知らず、それまで未読だった "The Dressmaker" (73)、"The Bottle Factory Outing" (74)、そして本書 (96) と古い順に読んできたが、何年か前に読んだ "An Awfully Big Adventure" (90) とあわせた4冊の中では、これがいちばん出来がわるい。「追悼読書」なのであまりケチはつけたくないのだが…。
 それでも、レビューや雑感で述べたように、途中まではけっこう面白かった。男女のからみもふくめ、べつにどうってこともない話だが、「その手馴れた筆運びはまさに職人芸」。たまたま舞台がタイタニック号というだけで、陸地のふつうの街と変わらない「市井の物語」がしばらく続く。ユーモアもあってなかなかいい。
 それが今までのパターンだと、終盤に意外な展開が待っていて大いに盛り上がる…と思ったら、本書の場合、意外でも何でもなく、ただ船が氷山に衝突するだけだ。これでガックリきた。何だ、これでは「途中はメロドラマ、最後は大スペクタクル」という「定型」とほとんど同じじゃないか。
 しかも、その悲劇に「大スペクタクル」と呼べるほどの迫力がない。たとえば往年の海洋冒険小説の雄、アリステア・マクリーンだったら、ここはもっともっと面白いはずなんだがな、と思いながら読み流してしまった。
 ベインブリッジは「やはり、小市民社会で起きる小さな事件を扱うのが得意だったようだ」。上記の企画で第1位に選ばれた "Master Georgie" (98) は未読だが、彼女が5回もショートリストに残りながら、ついに「悲運の女王」に終わってしまった理由も何となく推測できそうである。