ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Half Blood Blues” 雑感

 今年のブッカー賞最終候補作、Esi Edugyan の "Half Blood Blues" に取りかかった。Alison Pick の "Far to Go" の雑感にも書いたとおり、今年は Pick とこの Edugyan、それから Patrick Dewit と、カナダの作家が3人もロングリストにノミネートされて話題になっていた。そのうち Pick は残念ながら("Far to Go"、ぼくには大満足の作品だったのに)脱落したが、Edugyan と Dewit はショートリストに入選。カナダではさぞ盛り上がっていることでしょう。
 さてこの小説、今、巻頭の著者紹介を読んでビックリした。文体と内容から判断して、てっきり男の作家だと思っていたのだが、何と女流だったんですね。とにかく口語、俗語とりまぜた力強い骨太の文体で、ブロークンな英語だ。混血ながらボルチモア出身の黒人が語り手だからである。
 ストーリーもなかなか快調だ。第1部は1940年、ドイツ軍占領下のパリが舞台。裏町のスタジオで黒人のジャズ・バンドがレコード製作に取り組んでいる。そのうちの天才的なトランペット奏者、Hiero が早朝、危険を冒して出かけたカフェで逮捕される。同道した主人公の Sid は恐怖のあまり、ドアのかげで身動きひとつできない。このくだり、一気にサスペンスが高まり、面白い!
 第2部は一転、1992年のベルリンが舞台。昔のバンド仲間 Chip に誘われ、Sid は Hiero の記念フェスティバルが催される彼の地へ向かう。Hiero は逮捕後、強制収容所に入れられ、戦後まもなく死亡したという話だが、戦時中のレコードが復刻され、ジャズ・ファンのあいだでは今や伝説的な巨匠なのだ。ところが、そのフェスティバルで…。
 裏表紙の作品紹介も似たようなもので、これくらいならバラしてもいいだろうと思って書いたが、じつはもう中盤過ぎまで読みすすんでいる。過去編と現代編が平行して進み、第1部のように突然、ぐっと盛り上がる山場があって引きこまれる。ただ、芸術性が問われるはずのブッカー賞にはどうなのかな、という気もするけれど…。
 ともあれ、トランペットの話が出てきたので、久しぶりにマイルス・デイヴィスを聴きながらこれを書きました。「バグス・グルーヴ」「カインド・オブ・ブルー」「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」、どれも最高! この本も最高だといいな。