ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“State of Wonder” 雑感

 Ann Patchett の "State of Wonder" に取りかかった。去る6月、早くも今年のベスト10小説に選んでいるサイトを発見し(その後、米アマゾンでも上半期のベスト10入選)、以来ずっと読みたかったのだが、「ブッカー賞読書」に追われて積ん読のままだった。アメリカではもう4ヵ月近くベストセラー・リスト入りを果たしている。ぼくが入手したのは、イギリスのペイパーバック版のほうだ。
 Ann Patchett といえば "Bel Canto" が有名だが、ぼくは恥ずかしながら未読。今調べると、同書は2002年刊。当時はまだ、今のように現代文学を追いかけるのではなく、20世紀の名作の catch up にいそしんでいた。おかげで同書も Patchett のほかの作品も、つい後回しになってしまった。その後、名作巡礼は中断、19世紀のものは手つかず。現代文学も Patchett のように読み残しが多い。だめだなあ、ほんとに。
 閑話休題。これはまあ、ひと目惚れ、というやつですな。冒頭の数ページ読んだだけで、すっかりトリコになってしまった。何よりもまず、文章がうまい! 知的でかつ上品。ストーリーを追う前に英語そのものに惹きつけられたのは久しぶりだ。文体は異なるが、Louise Erdrich の "The Painted Drum" を読んだときのことを思い出した。
 そのストーリーだが、主人公の女性 Marina の内面描写がいろいろな事件と常に結びつきながら進行しているのが特徴だ。彼女はアメリカの製薬会社の研究員で、恋愛関係にある社長の命を受け、ブラジルのマナウスへ飛ぶ。ふつうだったら機内の様子などカットするところだろうが、ここでは隣りの乗客をうまく使いながら、現在の状況に Marina の子供時代の体験を少しずつ重ねていく。おかげで、彼女の人物像がくっきり浮かびあがると同時に、明らかな端役でさえも意味のある存在となっている。これ、本書の中ではかなり枝葉末節のエピソードだが、こういう細部にいたるまで「心理の目」が光っているのだ。主筋については言わずもがなだろう。
 …ありゃ、肝心の主筋にふれる時間がなくなってしまった。今日はこれにて。