ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Binocular Vision” 雑感 (2) と “The Cat's Table” 雑感 (1)

 今週は仕事三昧で、文化の日も終日「自宅残業」に追われ、今日も土曜なのに出勤。おかげで本はボチボチしか読めなかった。
 まず "Binocular Vision" だが、前回、「どの物語も幕切れで、それまで深く潜行していた感情が水面にぱっと浮かんできて、波紋が一気に広がるような印象を受ける」と報告したのとは裏腹に、その後、最初から最後までストーリーが「淡々と進む」短編に出くわした。エルサレムのアパートの住人が交代で登場し、そのうちの一人を東南アジアの男が介護するうち、やがて住人の一員となる第6話がそうだ。ユダヤ人の家に集まってポーカーに興じるラビたちの姿を描いた第7話もしかり。どちらもさしたる事件は何も起こらないと言っていいのに、案外よく出来ている。彼らの日常生活を淡々と描く。ただそれだけで読ませるところが職人芸なんでしょうな。Edith Pearlman は、根っからの短編小説作家なのかもしれない。
 一方、かなり前に注文していた今年のギラー賞最終候補作、Michael Ondaatje の "The Cat's Table" がようやく手元に届いた。アマゾン・カナダでは大変評判がいいようだ。"Binocular Vision" も気になるが、Ondaatje も読みたいな…と迷った末、今日はとりあえず Ondaatje に乗りかえることにした。
 Ondaatje といえば、もちろん "The English Patient" が代表作で、ぼくも何年か前に読んだことがあるけれど、中身はもうろうとしか憶えていない。だから、この "The Cat's Table" を読みはじめたとき、え、こんな文体の作家だったっけ、と驚いた。こちらも Pearlman と同じく、わりとあっさりした書き方だ。
 11歳の少年が単身、旧セイロンから母親のいるロンドンまで船旅に出る、というのが今までの展開で、船内のレストランで指定された席が "The Cat's Table" と呼ばれている。少年が通っていた学校での思い出や、やがてロンドンで体験する事件の簡単な紹介も混じるが、中心は洋上生活の模様である。いつも同席の少年2人と仲よくなり、いろんなイタズラを働いたり、やはり同席のピアニストに昔のレコードを聴かせてもらったり、といったところ。まだまだイントロの段階で、面白いとも何とも言えない。その点、冒頭から引きこまれた "The English Patient" より落ちるような気もする。文体の確認のため、同書の出だしの数行を改めて読んでみたが、やっぱりいい。香気が匂い立つような世界ですな。
 明日、2冊のどちらを読むかは未定。仕事の進み具合で決めることにしよう。