ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Anne Tyler の “The Beginner's Goodbye” (2)

 アン・タイラーの小説を読むのはほんとうに久しぶりだ。日本でもファンが多いと聞くが、ぼくは5冊も積ん読中。それなのに、この "The Beginner's Goodbye" が米アマゾンの4月の優秀作品に選ばれているのを見かけ、思わず飛びついてしまった。実際に読んだのは今週だけど。
 結論。これはコーヒーブレークにもってこいの読み物ですね。表紙にコーヒーカップティーカップの写真をあしらっているのも、そういう意図があるのかもしれない。「夫婦愛をテーマにしたアン・タイラー十八番の家庭小説だとすぐにわかる」作品で、内容的に決して深いわけではないし、冒頭で、あれ、オカルト小説かとドッキリさせられたあと、その後の展開も結末もおおよそ見当がつく。それでもついついページをめくり、最近のぼくにしては珍しく一気読みしてしまった。
 さすがだな、と思ったのは、映画『ゴースト/ニューヨークの幻』と似たような設定なのに、センチメンタリズムとは明らかに一線を画しているところ。しかも「感情を抑えた筆致」ゆえに、かえって「妻を思う夫の心情がしみじみと伝わってくる」点に感心しました。いつも何だかんだとイチャモンをつけているぼくでさえ、「こんなお話を読むと心がなごむ」。良質の文芸エンタメ路線の見本のような作品ですな。