ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

国際IMPACダブリン文学賞発表 (2012 International IMPAC Dublin Literary Award)

 今年のダブリン文学賞は Jon McGregor の "Even the Dogs" に決定した。ぼくはこの本を東日本大震災直後、計画停電のさなかに懐中電灯で照らしながら読んだ憶えがある。今年のショートリストでほかに読んでいたのは、Jennifer Egan の "A Visit from the Goon Squad", Aminatta Forma の "The Memory of Love", Karl Marlantes の "Matterhorn" の3冊で、いずれも過去に有名な賞を受賞したり、年間ベストに選ばれたりしたものばかり。
 ぼく自身の評価としては、"The Memory of Love" と "Matterhorn" に☆☆☆★★★を進呈しているが、ダブリン文学賞には、今まであまり評判にならなかった優秀作品を紹介する役割もあると思うので、今回の決定に異論はない。ともあれ、"Even the Dogs"のレビューを再録しておこう。

Even the Dogs

Even the Dogs

[☆☆☆★★] 年の暮れ、アル中の男がボロアパートで孤独な死を迎える。たったそれだけの話なのに、よくもこれほど見事な小説に仕立てたことかと感心した。まず視点と叙述スタイルに工夫が凝らされている。必ずしも現場にいるとは思えない男の仲間たちが、男の死体発見から搬送、司法解剖、検死裁判、そして火葬にいたるまでを実況中継。と同時に、妻子と別れ、アパートで一人飲んだくれていた男の人生と、ドラッグなしには生きていけない仲間たちの人生が超倍速で再現される。時には意識の流れの技法もまじえながら、カットバックを鮮やかに繰りかえし、ブロークンな口語や俗語をもちいて力強く、また歯切れよく最下層の人々の生態を描きだす文体と言葉の魔力。その奔流の中から孤独と悲哀、絶望、喪失感、愛する人への思い、とりわけ死んだ男を思う仲間たちの友情などが次第に伝わってくる。しみじみとした余韻を味わえる佳作である。英語は流れに乗れば読みやすいが、難易度はけっこう高いほうだろう。