Hilary Mantel の2連覇達成! ロンドン時間で16日夜(日本時間では本日早朝)、ブッカー賞の受賞作が発表され、2009年の "Wolf Hall" につづいて、シリーズ第2作 "Bring up the Bodies" がみごと栄冠に輝いた。ぼく自身は前作ほど高く買っていなかっただけに意外な結果だ。英国王室ものの歴史小説ということで、やっぱりイギリス人好みなんでしょうかね。こうなったら3部作の掉尾を飾る次の作品 ("The Mirror and the Light") にも大いに期待が高まるというものだ。それにしても、ぼくのイチオシだった "The Lighthouse" が落選したのはほんとに残念!
以下、"Bring up the Bodies" のレビューを再録しておこう。なお、その他の最終候補作については、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20120911 にまとめてレビューを掲載しています。ただし、"Umbrella" だけはパス。パスして正解でした。
[☆☆☆★★]『ウルフ・ホール』三部作の第二作。今回の柱は、ヘンリー8世の新王妃アン・ブリーンが男子の世継ぎを産めず、処刑されるというおなじみの大事件。前作同様、宮内長官トマス・
クロムウェルの立場から綴ったもので、前王妃キャ
サリンの他界、アンの流産、ヘンリーと女官ジェイン・
シーモアの密通と、なんのケレンもなく史実どおりに進む。間然とするところのない構成で緻密な描写も健在だが、前作とちがって裏話、楽屋話の楽しさが影をひそめたのは残念。途中の山場も少ない。
クロムウェルは相変わらず冷静な観察力と交渉術にたけ、カネを武器に各要人のあいだを自在に動きまわり、身勝手な国王の願望実現のために尽力する。が、そのしたたかな現実主義のおもしろさは二番煎じの感を否めず、また、トマス・モアの理想主義という対立軸をうしなったぶん、作品全体に深みが欠ける結果ともなっている。とはいえ、
クロムウェルがアンの「愛人たち」を尋問するあたりから大いに盛りあがり、アンの処刑場面はもちろんリアルで凄惨。新味としては、本書が
クロムウェルの庇護者トマス・ウールジを失脚に導いた張本人たちへの復讐劇となっている点だろうか。
クロムウェル自身の最期を予感させるくだりもあるが、国王に翻弄される現実主義者のはかなさは次作のお楽しみ。佳篇だが結局、三部作のつなぎでしかない憾みがある。