ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Coward's Tale” 雑感 (2)

 このところ週末は(一杯が一杯で終わらないせいもあって)ついダラダラ過ごしてしまい、今週も今日から仕切り直し。改めて本書に取り組み、がんばれば明日には読了できそうなところまで読み進んだ。
 これ、相変わらず快調です! その後も長編というより連作短編集のような感じで、あえてケチをつければ、最初の数話を読んだだけつかめるパターンがそのまま続き、こちらの予想を上回る内容はもうほとんど出てこない。ただ、これは長所とも言え、ぼくのように中断しても、すぐにまた作品の世界に戻ることができる。要は短編集のノリだからだが、ひるがえって、こんなスタイルでもブッカー賞のロングリストに選ばれるのか心配になってくる。
 いや、それはくだらない心配だ。賞レースうんぬんとはべつに、本書はとてもウェルメイドな作品だと思う。舞台はウェールズの田舎町。昔は炭鉱町として栄えたようだが、落盤事故で多数の死傷者が出たこともあって、今ではすっかりさびれている。教会にも牧師はいない。その教会の前で寝泊まりしているのが本書の語り部、Coward というあだ名の乞食の老人である。いっぷう変わった人物が次々に登場し、その奇行に興味を持った人々のリクエストに応じ、食べ物をほどこしてもらう代わりに老人が、各人の奇行にまつわる昔話を始める。一方、親しくなった少年に自分の身の上話もするのだが、これがどうやら Coward の由来とかかわっているらしい。
 ざっとそんな設定だが、ひとつひとつの話にしみじみとした味わいがある。基本的には人情話だと思うけど、語り口がとても詩的で、ときに幻想小説のような不思議な世界を現出し、明らかに現実描写とマジックリアリズムの混淆が認められる。この絶妙のスタイルによって、上の落盤事故が人々の心にのこした傷が次第に浮かびあがってくる。うしなわれた愛の物語といったところでしょうか。