ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kevin Powers の “The Yellow Birds” (1)

 今年の全米図書賞候補作、Kevin Powers の "The Yellow Birds" を読了。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書は2017年、アレクサンドル・ムーア監督によって映画化されました)。

The Yellow Birds: A Novel

The Yellow Birds: A Novel

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[☆☆☆★★] イラク戦争の最中、戦友を亡くした青年兵士の回想記。イラク北西部の街周辺でおこなわれた戦闘の模様と、訓練中から除隊後までの話が交互に進む。即物的に淡々と、あるいは相当な迫力をもって戦争の現実が描かれる一方、時には意識の流れに近い技法で、青年兵の脳裏にうかぶ数々の思いが綴られる。砲弾が炸裂して死者が出る場面などリアルで息をのむばかりだが、基調にあるのは戦争の不条理や悲惨さで、あえて不謹慎ないいかたをすれば想定内。亡き戦友の母親と青年兵のやりとりも、痛切ではあるが定石どおり。帰国後、ふと戦場の記憶がよみがえり、その戦友への思いに胸をえぐられるシーンもまたしかり。つまり、これはイラク戦争が題材である点を除けば、どの局面をとっても従来の戦争小説とほとんど変わらない。それどころか、イラク戦争と聞いて思いうかぶイメージどおりの作品に仕上がっている。ただし、緊張感のある簡潔で、時に芸術的にいり組んだ文体はおおいに評価したい。