今年の全米図書賞候補作、Kevin Powers の "The Yellow Birds" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★]
イラク戦争の最中、戦友を亡くした青年兵士の回想記。
イラク北西部の街周辺でおこなわれた戦闘の模様と、訓練中から除隊後までの話が交互に進む。
即物的に淡々と、あるいは相当な迫力をもって戦争の現実がえがかれる一方、時には意識の流れに近い技法を駆使しながら、青年兵の脳裏にうかぶ数々の思いが綴られる。砲弾が炸裂して死者が出る場面などリアルで息をのむばかりだが、基調にあるのは戦争の不条理や悲惨さで、あえて不謹慎な言い方をすれば〈想定内〉。死んだ戦友の母親と青年兵のやりとりも、痛切ではあるが定石どおり。帰国後、ふと戦場の記憶がよみがえり、亡き戦友への思いに胸をえぐられるところもまたしかり。つまり、これは
イラク戦争が題材である点を除けば、どの場面をとっても従来の戦争小説とほとんど変わらない。それどころか、
イラク戦争と聞いて思いうかぶイメージどおりの作品に仕上がっている。ただし、緊張感のある簡潔で、時に芸術的に入り組んだ文体は大いに評価したい。難語も散見されるが英語は総じて読みやすい。