今年の全米図書賞は11月14日に発表。ちらっと検索したかぎり、Sigrid Nunez の "The Friend" が面白そうだが、今月はもう予算的に購入は無理。もしヤマカンどおり栄冠に輝いたら、来年2月に出るというペイパーバック版を待つとしよう。
さてこの "Redeployment"(2014 ☆☆☆★★★)、これもひどい代理店のせいで結局入手できなかった Esi Edugyan の "Washington Black" が届くまで、〈場つなぎ〉として取りかかった。周知のとおり、2014年の全米図書賞受賞作である。
いつもどおり内容も確かめずに読みはじめた。おやまたイラク戦争がテーマの小説ですか。正確には、アルカイーダの掃討作戦をめぐる連作短編集。
最初のうちは、戦争映画でおなじみのアクション・シーンを簡潔に、また不条理な状況をユーモアたっぷりに描くなど、よくあるパターンでふつうの出来だったが、第8話 "Pyayer in the Furnace" のこんなくだりに思わずうなってしまった。I had at least thought there would be nobility in war. I know it exists. There are so many stories, and some of them have to be true. But I see mostly normal men, trying to do good, beaten down by horror, by their inability to quell their own rages, by their masculine posturing and their so-called hardness, their desire to be tougher, and therefore crueler than their-circumstance. / And yet, I have this sense that this place is holier than back home. Gluttonous, fat, oversexed, overconsuming, materialist home, where we're too lazy to see our own faults.(pp.150-151)
この And yet 以下に驚いたのだ。「貪欲な物質主義のはびこる本国よりも、生死の境の極限状況にあるほうが、我々は自分の欠点を目のあたりにする」。ゆえに holier だ、という指摘はじつに鋭い。凡百の戦争小説、戦争映画は beaten down …… の路線が主流ではないだろうか。
こんなことを書く著者はいったい何者だろうと巻末を見ると、精悍な顔つきの写真が掲載され、Phil Klay はイラクで従軍した元アメリカ海兵隊員とのこと。上の言葉は「実体験に裏打ちされた鋭い現実認識」を示していたわけだ。
イラク戦争にかぎらず、戦争を扱った小説や映画は政治色が濃厚で、反戦思想にもとづくものが多い。べつにそれが悪いとは言わないが、あえて不謹慎な言い方をすれば、ちとワンパターン。ぼくはアマノジャクなので、「おやまたですか」と反応してしまう。
その点、本書はとても読みやすかった。「保守でもリベラルでもなく政治色を排し」、現実を直視することに専念したスタンスがぼくには好ましく、そればかりか、上のように戦争の本質を見すえているところに共感を覚えた。マジックリアリズムなどをもちいた表現方法だけ型やぶり、実質的には定石どおり、という作品よりずっといいと思う。
え、そんな作品あったっけ、とここで気になり、いままで本ブログで論じたイラク戦争関連の小説をまとめてみることにしました。「関連」といっても、エピソード扱い程度のもの、またテロリストがらみの作品もふくみます。レビューの公開順です。