全体の4分の3あたりで大事件発生。タイトルと関係がある、と書くとネタばらしになりそうだが、「安心してください」。たぶん大丈夫だろう。
この事件が起こるまでは、いや起こってからも、本書は本質的にメロドラマである。それにファミリー・サーガという要素が加わり、だから4部作なのではないかと推測する。キーワードは、男と女、そして家族だろう。
主な舞台はナポリの下層地区。作者と given name が同じ女性 Elena が主人公だ。本書の中で作家としての地歩を固める。Elena の生まれ育った界隈は治安がわるく、街の現実を小説の題材に採りあげたところ、地元暴力団の不興を買うといったエピソードもある。言い忘れたが、本書はイタリア語からの英訳版だ。
メロドラマだから低級とか、メロドラマだからおもしろくない、ということはない。かの "Anna Karenina" [☆☆☆☆★★] にしても、昨秋、本ブログでえんえんと感想を書き綴った "The Red and the Black" [☆☆☆☆★★] にしても、まるでメロドラマの見本のようなメロドラマである。昨日紹介したように、作者 Elena Ferrante は、Granta 誌によれば現代の Flaubert ということらしいが、上記2作より出来はかなり落ちるものの、"Madame Bovary" [☆☆☆★★★] もメロドラマ。
そういう世界文学の名作とくらべるまでもなく、この "The Story of the Lost Child" は今のところ、つまらない。上の大事件で話が急展開し、時代もそれまでの1970年代後半から90年代後半へと一気に飛ぶ。Elena も年を取る。のこり4分の1で加速度的に話が盛り上がるかもしれない。ぜひ、そうあってほしい。
が、なぜ今までつまらないのか。どこが上のような名作と違うのか。いろいろ考えてみた。そこでパッとひらめいた答えがいくつかある。
まず、主人公 Elena をはじめ、どの人物もスケールがあまりにも小さい。次に、メロドラマにつきものの障害も小さすぎる。つまり、主人公が幸福をつかむことを困難にさせるハードルが低すぎるのだ。これで 'an extraordinary epic' とは、Michiko Kakutani さん、ちとホメすぎじゃありませんかと言いたいところだが、終わりよければすべてよし。大団円を期待しよう。
(写真右手は、宇和島市辰野川にかかる龍華橋と、伊達家の菩提寺、龍華山統覚寺。左手のベンチでよくご老人たちが日向ぼっこや夕涼みをしている。ぼくもこの夏、ここで本を読むつもり)