ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ian McGuire の “The North Water” (1)

 今年のブッカー賞候補作、Ian McGuire の "The North Water" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 読み物としては非常におもしろい。冒険小説と犯罪小説の味わいだ。19世紀なかば、イギリスの捕鯨船グリーンランド、バフィン湾に向けて出発。捕鯨シーンはもちろん、船医パトリック・サマーが軍医時代に遭遇したセポイの乱当時の戦闘シーン、出航前の港と船内で起きた忌まわしい殺人事件、氷海に閉じこめられた乗組員たちの壮絶なサバイバル劇、さらには捕鯨船をめぐる陰謀などなど、開巻早々からスリルとサスペンス満点の展開で息をつく間もないほどだ。パトリックの屈折した心理や、背筋の凍るような殺人鬼の跳梁ぶり、パトリックとエスキモーとのふれあいなど、人物像や人間関係もしっかり描きこまれている。ことほどさように読者を楽しませる作者のサービス精神はすばらしい。が、読んだあと心にのこるものは、なにもない。文芸エンタテインメントとして割りきって読むべき作品である。