きのう今年の全米図書賞最終候補作、Kali Fajardo-Anstine の "Sabrina & Corina"(2019)を読了。Fajardo-Anstine はデンヴァー在住の新人作家で、本書は彼女の第一短編集である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] デンヴァーと近郊の町を舞台に、ラテン系の女性たちの人生の絆にまつわる悲哀と苦悩を描いた11の物語。まず第一話がいい。学校で渡された砂糖の袋で模擬育児に励む女の子が〈乳児〉と別れ、そこへ勝手気ままな母親との別離の悲しみが重なる。つぎの表題作では、仲のよかったいとこのサブリナが絞殺され、その死に化粧をほどこしたコリーナが、自由奔放ながら心に傷をかかえていたサブリナの生前の姿を思い出す。ほかにも肉親や夫、恋人などとの別れ話がつづき、浮気性で自堕落な上の母親がなんどか登場。不幸な家庭環境で育った娘が喪失を通じて家族の絆を思い知る。どれも似たような人物設定と筋書きで、絆の重さがしみじみと伝わってくるものの、一気に読むには退屈。また、途中経過はまずまずなのだが、最後、主人公の人生を象徴する瞬間のインパクトがやや弱い。その昔、「短編小説は閃光の人生」という秀逸なキャッチコピーがあったが、本書は残念ながら〈閃光度〉がいささか足りない。しかし若い作家だ。今後を期待しよう。