ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Yiyun Li の “Gold Boy, Emerald Girl” (2)

 Yiyun Li は「中国のチェーホフ」と呼ばれているらしい。たぶん基本知識なんだろうけど、ぼくは不勉強で、本書の裏表紙にある書評の抜粋を読むまで知らなかった。
 チェーホフですか。書棚には Penguin 版、Vintage 版、Bantam 版などの短編集が何冊か鎮座しているが、どれも未読。そこで大昔、邦訳で読んだ記憶をたどってみると、「市井の人々の哀歓を静かな筆致で描いた」ところが(自信はないが)チェーホフに似ているということかもしれない。ただ、チェーホフには「かわいい女」など、人間にかんする真理を深く洞察した短編があって、その点、少なくともこの "Gold Boy, Emerald Girl" から判断するかぎり、「……のチェーホフ」というのは、いささかホメすぎのような気もする。
 とはいえ、これが粒ぞろいの短編集であることは間違いない。現代の中国が舞台の小説を読むのは初めてだったが、ぼくにはまず、政治がらみの話題が前面に出てこないところが大助かり。何度か文化大革命への言及はあるものの、孤独な人間の長い人生における一つの事件という位置づけで、政治色は薄い。人民解放軍における軍事訓練を描いた第1話 'Kindness' もそうだ。ぼくは映画「愛と青春の旅だち」や「フルメタル・ジャケット」を思い出しながら、この女教官がヒロインの心に静かにのこっている点など、いい味出してるなあと感心した。
 昨日のレビューはくだくだしく書いてしまったが、要するに「孤独な人間が心に秘めた思い」――それがこの短編集のテーマだと思う。その「秘めた思い」が「少しずつにじみ出てき」た結果、「庶民の平凡な日常生活」において、「それぞれの人生を象徴する一瞬」が生まれる。そこに凝縮された感情を汲みとるのが本書の醍醐味だろう。長らく積ん読のままにしている "A Thousand Years of Good Prayers" も、近いうちに catch up しなければいけませんね。