ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Gale の "Notes from an Exhibition"(2)

 ときどき覗いているアマゾンUKの Fiction 部門のベストセラー・リストを先ほど見たら、先週読みおえた "Notes from an Exhibition" は75位。いつから載っているかは憶えていないが、相当前からであることは確かだ。たぶん、Richard & Judy Book Club が2008年(といっても実際は去年)の優秀作を発表したとき以来だろう。
 このブック・クラブがどんな団体かは知らないが、イギリスのやや大衆的な文学界(そんなものがあるとして)では一定の影響力があり、今年に限らず、その推薦図書はアマゾンUKでベストセラーになることが多い。ぼくも今まで何冊か読んだが、読み損、買い損だったことは一度もない。それどころか、知らない作家の知らない本を買うときに参考にしているくらいだ。
 今までの推薦図書を見ると、Khaled Hosseini の "A Thousand Splendid Suns" や Carlos Ruiz Zafon の "The Shadow of the Wind" など、大衆受けのする肩の凝らないものが多いようだが、中には Chimamanda Ngozi Adichie の "Half of a Yellow Sun" のような優れた問題作もあり、目が離せない。
 以上のような背景で "Notes from an Exhibition" を買い求めたわけだが、良くも悪くも、さすがはこのクラブが選んだ本だな、という気がした。いい点としては、「細部にこだわり過ぎ」るきらいはあるものの、画家の遺作や遺品にまつわるそれぞれの話がしっかり書きこまれていること。おかげで、電車の中でコマギレに読んだ割には印象がぶれなかった。
 ただ、読みはじめたときから思ったことだが、これは、「人生の真実を鋭くえぐり出し、読者に知的興奮を与えるタイプの小説ではない」。たしかに面白い。少々回りくどいが、最初は謎の存在だった画家の肖像が次第に浮かびあがり、同時に、夫や子供たちの性格、心理も浮き彫りにされるなど、全体の構成も見事。そこへもってきて、「各人の人生の重大な瞬間」が鮮やかに描かれるのだから、これ以上、何を求めることがあろう。
 が、身も蓋もない話をすると、妻が、母がその昔、どんな娘だったのか分かったところで、それが読み手の人生とどうかかわるのか。そのあたりの説得力がどうも弱い。本書がぼくの言う「文芸エンタメ」の域を出ていないゆえんである。もちろん上記の理由で、高級エンタテインメントではあるのだけど。