読みはじめたとき、こんなに重い作品だとは夢にも思わなかった。それどころか、雑感でもふれたとおり、ポリティカル・スリラーと知って軽く考えていたくらい。その後、「ぐっと深みが出てきつつある」ことに気づいたものの、まさかこれほど重かったとは。お見それしました。
何よりも感心したのは、本書が「解明に値する謎」を扱っている点である。いわゆる純文学の中にもミステリアスな作品はたくさんあるけれど、最近の英米のものはどうも食い足りない。Sarah Waters の "The Little Stranger" や、Maggie O'Farrell の "The Vanishing Act of Esme Lennox" などについて書いたことを繰り返すと、「その謎が解かれることによって、なるほど人間にはこんな側面があったのか、人生にはこんな厄介な問題があったのか、と目から鱗が落ちるような思いをする文学作品」をぼくは読みたいのに、その願望が満たされることはめったにない。謎が解けたとき、だから何なんだ、とガックリくる場合がほとんどである。
その点、"Red April" における連続殺人事件には、「解くことによって多少なりとも人生の真実が見えてくる謎」が秘められている。ミステリなので詳しくは書けないが、「戦争においては人間は敵味方の区別なく醜悪な存在となるという現実」を、戦争の後日談というかたちで暴きだしたものである。ほぼ同じテーマを扱った Chimamanda Ngozi Adichie の "Half of a Yellow Sun" と較べると、問題の入口付近でとどまっているという点では見劣りするけれど、悲惨な現実をよくぞここまでドラマ化したものだと賞賛したい。
参考までに、5年前のオレンジ賞発表前に書いた "Half of a Yellow Sun" のレビューを再録しておこう。(点数は今日つけました)。
- 作者: Chimamanda Ngozi Adichie
- 出版社/メーカー: Fourth Estate (GB)
- 発売日: 2007/01/01
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