ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lily Tuck の "The News from Paraguay"

 ご存じ Michiko Kakutani が発表した今年のベスト10を見たら、Joseph O'Neill の "Netherland" も選んでいた。http://www.nytimes.com/ref/books/2008holidayKakutani2.html?ref=arts 早く読みたいところだが、超多忙のため、"Notes from an Exhibition" を読むのも中断している始末。そこで今日も昔のレビューだ。

The News from Paraguay: A Novel

The News from Paraguay: A Novel

[☆☆★★★] 昨今は歴史を題材にした小説が隆盛のようだが、本書もその一つ。歴史小説が成功する主な要因としては、波瀾万丈の展開、魅力的な人物の活写などの他、史実と小説的現実が一体となって産みだす迫力が何より不可欠だろうが、以上の点からすると、本書はそこそこに楽しめる。時代背景は19世紀中葉、時のパラグアイ大統領がブラジルなどを相手に開始した三国同盟戦争。その客観描写と交互に、大統領が就任前に遊学先のパリで見そめて連れ帰った女の日記、書簡などが提示される。女は美人の上、逆境に耐える強靱な精神の持ち主。女だてら剣をふりまわすなど、異境での悪戦苦闘ぶりは、ちょっとした女傑伝と言える。短いエピソードが次々に紹介されるので退屈はしない。が、残念ながら手に汗握る感動物語というほどではない。まして、これが全米図書賞受賞とは…と疑問に思うのは評者だけだろうか。英語は準一級程度で読みやすい。

 …04年の全米図書賞受賞作。アマゾン向けに商品価値を落とさないよう配慮して書いたレビューだが(その後、削除)、本音は「これが全米図書賞受賞とは…」に尽きている。ほかの候補作を読んだわけではないので断言はできないが、これがもし本当にベストだったのなら、この年は相当な不作だったに違いない。
 Lily Tuck は今年、"Woman of Rome: A Life of Elsa Morante" という新作を発表しているが(未読)、どうも不評のようだ。全米図書賞がその後、「著名作家の顕彰」という性格を帯びはじめたのは、この新人作家の作品を選んだ反動かもしれない…てことは、まさかないだろうな。