ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"2666" Part 3 雑感(2)

 ううむ、困った。あと40ページ足らずで第3分冊を読み終わるというのに、まだ本書のタイトル "2666" の意味が分からない。全体のテーマはたぶんこれだろう、という手がかりはつかんでいるつもりなのだが…。
 それはさておき、この第5部は第1部 "The Part about the Critics" の続編としての性格が強い。第1部は、謎のドイツ人作家 Benno von Archimboldi に強い関心をいだく4人の学者の複雑微妙な関係が中心で、作家のほうは正体不明のままだったが、最後になってようやくその正体が明かされるという筋書きだ。とりわけ後半、本名の Hans Reiter からペンネームの Archimboldi に「変身」してからは、作家としての活動が紹介されるようになり、第1部で学者たちが訪れた出版社の裏話も出てくる。
 その出版社の現社長、元男爵夫人とアーキムボルディーの関係が面白い。二人が長い年月を経て再会した場面など、スタンダールの "The Charterhouse of Parma" と似たような味わいである。もちろん、あれほどの冒険ロマン小説ではないが、少なくとも偶然をうまく利用したメロドラマに近い要素があることは間違いない。アーキムボルディーと妻の出会い、二人の結婚生活にも同じことが言える。昨日も書いたように、このパートはやはり、本書で「伝統的な小説に最も近い」章だと思う。
 夜、オーストリアとの国境にほど近い山の中で、アーキムボルディーが妻と一緒に眺めた満天の星。元男爵夫人と肩を並べて見いったヴェニスの冬景色。ぼくは文学ミーハーなので、そんな場面を読むと思わず溜息をついてしまう。…さて、結末はどうなりますか。