ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Cellist of Sarajevo" 雑感(1)

 このところ「自宅残業」に追われ、思うように読書を楽しめない。さすがに分厚い本は敬遠し、Steven Galloway の "The Cellist of Sarajevo" をボチボチ読みはじめた。アマゾンUKでは今年の初めからずっとベストセラーで、今もチェックするとフィクション部門の36位。Richard & Judy Book Club の推薦図書でもある。
 そう長くないし英語は簡単、歯切れのいい短い文がどんどん続いているので、時間的に余裕のある人なら数時間で読み切れそうだが、その時間が取れない…などとグチをこぼしながら仕事の合間に読んでいるせいか、今のところあまり乗れない。
 舞台はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のさなか、セルビア人勢力に包囲されたサラエボの街。冒頭、タイトルどおりチェリストが登場し、廃墟の中でアルビノーニアダージョを弾きはじめるが、すぐに退場。女の名狙撃手と2人の一般市民が交代で主役となり、美しい平和な街だった昔の思い出を交えながら、砲撃や狙撃で突然襲ってくる死の恐怖や日常の耐乏生活など、厳しい戦争の現実について語り継ぐという展開だ。
 やがてチェリストは毎日同じ時間に演奏を続けるようになり、女狙撃手はその警護を命じられるが、チェリストの意図はまだ不明。たぶんそれが本書の勘所なのだろう。その謎を除けば、今まで読んだ範囲は上記のとおり、いささか月並みな内容である。たしかに突然の恐怖の一瞬にはヒヤッとするものの、それもまた戦争小説では定石であり、特に目新しさは感じられない。この3年くらいに読んだ本にかぎって言えば、Irene Nemirovsky の "Suite Francaise" と Chimamanda Ngozi Adichie の "Half of a Yellow Sun" が傑出した戦争小説として記憶に残っているが、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071122, http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071129 さて、これからこの "The Cellist of Sarajevo" が両書のような水準に達するのかどうか、お手並み拝見といったところだ。