ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Mary Ann Shaffer & Annie Barrows の "The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society"(2)

 戦争が背景にある小説を読んだのは、David Benioff の "City of Thieves" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090312、Steven Galloway の "The Cellist of Sarajevo" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090404 に次いで、今年はこれで3冊目。どれもなかなかの出来ばえだが、味わいは多少違う。
 "City of Thieves" は痛快無類の文芸エンタメ路線で、その意味で楽しいことこの上ない。"The Cellist of Sarajevo" は一種のすがすがしさを感じさせる小説で、戦時にあっても、人が自分に可能な範囲で「人間として当たり前のことを当たり前にやる」というメッセージが伝わってくる。サラエボ包囲戦の最中、「砲撃で多数の市民が死亡した現場でチェロ奏者が毎日、事件発生と同じ時刻にアルビノーニアダージョを弾きはじめる」という設定だけでも何か胸を打つものがある。これは実際にあった話らしい。
 "The Guernsey Literary...." の場合、ぼくは「戦争が背景にあるのに暗く深刻にならず、さりとて浅薄でもなく、人間の善良さ、正義感、人情や愛情など明るい面に的を絞った好感度抜群の作品」と要約したが、その明るさが皮相なものではない理由は、「悲惨な話がたくさん出てくるし、中には凄惨なシーンもある」にもかかわらず、「そういう極限状況においても善意や正義感、愛情を忘れず、また陽気にたくましく生きる人間」の姿が描かれているからだ。簡単に言えば、暗さがあればこそ明るさが救いとなる。この光と闇の配合が本書の特徴のひとつである。
 …長くなりそうなので、この続きはまた明日にでも。