昨日書いたレビューを読み返すと、とりわけ後半にハマってしまったときの興奮が伝わってこない。何だか他人事みたいだし、これでは原作のよさが分からない恐れがある。ただ、ぼくはどんなに感激した本でも、レビューらしきものを書くとなると、どこになぜ感動したのか、その感動の本質は何かと考える癖がある。そんな野暮なことに頭をひねっているうちに、興奮が少しさめてしまう場合もあるわけだ。
本書はずばり、読み手の心、正確には感情に訴えることを主眼とした作品だと思う。ここで味わう興奮は、たとえばロレンスやオーウェルなどを読んで覚えるような知的興奮ではなく、あくまでも感情的なものである。「現象を深く掘り下げ、人生の矛盾を追及するような作品ではない」からだ。
この意味で本書は基本的に「文芸エンタメ」路線なのだが、だからといって決して低俗な読み物ではなく、むしろ上質の「大衆文芸小説」である。主人公の2人の女性がさまざまな事件に遭遇し、あれこれ思い悩む姿に接すると、男のぼくでさえ、「そう言えば自分もあのときそうだった、と感情移入せざるをえない」。扱われているエピソードがごく日常的なものだけにリアリティーがあり、その現実がフィクション化されることによってインパクトを与える。これぞまさしく小説の醍醐味のひとつだろう。
70年代から現代にいたる時代背景として、大きな社会的事件やロックバンド、ヒットソングの話が出てくるのも楽しい。ジョン・レノンの死、ダイアナ妃の結婚と離婚、湾岸戦争、9.11テロ事件…。ストーンズやイーグルス、クイーン、ツェッペリンの "Stair To Heaven" や、キャロル・キングの "You've Got A Friend"…懐かしいなあ。音楽の話題の扱い方は村上春樹に似ているかもしれない。ひょっとしたら、その影響を受けているのかも。
なお、p.291の4行目にミスタイプを発見したので、著者のHPに載っていた連絡先にメールを送ったが、今のところ返事はない。