ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Northern Clemency" 雑感(6)

 錯綜、また錯綜! 「一種の家庭小説と言えば間違いないだろう」と書いた昨日の予想はものの見事に外れ(?)、本書のテーマはおろか、主筋さえも杳としてつかめない。今までかなりケッタイな小説もずいぶん読んできたつもりだが、伝統的なリアリズムに立脚しながらこれほど奇怪千万な小説に出くわしたのは、少なくともここ数年ではちょっと記憶にない。
 もちろん、まだ半分しか読んでいないので(何たる遅読!)、これから後半にかけて疑問点が少しずつ解消し、あとでふりかえれば、あちこちに巧妙な伏線が張られていたことに気づくのかもしれないが、今のところ、さっぱり先が読めない。何が何だかわけの分からない面白さ、それが本書の特徴である!?
 たとえば、「突然、それは始まった」と昨日思わせぶりに書いた「大事件」だが、何とその後、いっさい進展がない。ええい、こうなったらネタをばらしてしまおう。実は、元からシェフィールドに住み、冒頭で町内親睦会を催した奥さんが、勤め先の花屋の主人と関係してしまったのだ。で、メロドラマ好きのぼくは早とちりし、『アンナ・カレーニナ』のような大ロマン小説にどんどん傾斜していくのかと思ったら濡れ場だけでおしまい。これもダイグレッションだったのか…。
 元から住んでいる家の少年が越してきた家の少女と仲よくなり、それをきっかけに二つの家族の交流が始まったのはいいが、この二人がキーパーソンかと思ったら、その線も尻切れトンボ。少女が少年の弟を誘惑し、胸の谷間に顔を埋めさせるという愉快な事件も起こるが、これまたそれっきり。
 しかも次のパートは "Book Two-And-A-Half"、つまり第2.5部! 8年後のロンドンに話が飛び、少年の妹と少女の弟が再会する。といって、何か大きな進展があるわけではない。要は、どのエピソードをとっても、ある段階に達したところで中途半端に(?)終わってしまうのだ。だから面白くないかと言うとそうではなく、今日は帰りの電車の中で読みふけり、一つ先の駅まで乗り過ごしてしまった。はて、これからいったいどうなるんだろう。