計6回もああだこうだと、いや同じような雑感を書きつらねたおかげで、さすがにもう新しい内容を付け加えるまでもないだろうと思ったが、主な人物が一堂に会するフィナーレに至り、おや、このノリはどこかで見た憶えがあるぞ、とひらめいた。その結果、「古き佳きアメリカ映画を思わせる人情ドラマの佳作」と昨日のレビューにまとめた次第である。
前にも書いたとおり、本書には『フィラデルフィア物語』やケーリー・グラントなどの話が出てくるし、前作 "Love Walked In" ではさらに多くの映画、とりわけ黄金時代のアメリカ映画や俳優への言及がある。最初はそれが舞台効果を高める添え物くらいに思っていたのだが、勘の鈍いことに遅まきながら気がついた。じつはこれこそ、Marisa de los Santos の小説の本質なのではないか。つまり、「古き佳きアメリカ映画を思わせる人情ドラマ」。もっと端的に言えば、「キャプラ節」である。
『オペラ・ハット』、『我が家の楽園』、『スミス都へ行く』、『素晴らしき哉、人生!』…古典映画のファンには落涙ものの諸作で名高いフランク・キャプラ監督こそ、Santos が小説を書く上でお手本にしているのではないだろうか。途中、危機苦難はあるものの、人情の温かみ、ヒューマニズム…本書の大団円のノリは、まさしくキャプラ節以外の何ものでもない。(ちなみに、本書には『オペラ・ハット』の話も出てくる)。
しかもここには、社会告発、体制告発、戦争告発などなど、政治的なプロパガンダがいっさいない。それゆえ、安んじて「人情の温かみ」にひたることができる。Santos の小説がベストセラーになったということは、そうそう、こんな世界があったんだ、と多くのアメリカ人が懐かしく思っている証拠ではないかという気がする。