帰省2日目。きのう飛行機の中で読みはじめた Andre Maurois の “Climates”を読了。米アマゾンが選んだ去年12月の優秀作品だが、原書が刊行されたのは1928年で、フランス語からの新訳である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 19世紀フランス文学の香りをたたえた上質のメロドラマ。相思相愛ならハッピーな毎日だが、片思いとなると、純粋な愛情だけでなく嫉妬や独占欲なども混じり、さまざまな心の葛藤が生じる。この心理劇を「思う側」、「思われる側」の立場からそれぞれ描きわけたのが本書である。二部構成で、まず純朴な青年フィリップが絶世の美女オディールに惚れこむが結婚後離別。ついで純情可憐な娘イザベルが、こんどは恋多き男となったフィリップに熱を上げる。どちらも定石どおりの展開だが、20世紀初めのパリが主な舞台とあって、古き佳き時代の優雅な、しかし悲痛な恋愛劇が大いに楽しめる。人物像も類型的ながら、しっかり書きこまれているので気にならない。通勤中に読むと、周囲の現代とのギャップに感慨をおぼえることだろう。