ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Georgina Harding の “Painter of Silence” (2)

 例年この時期になると、あちらの文学ファンのあいだでは、ブッカー賞のロングリストが取り沙汰されるようになる。ぼくも過去2年だけ、その予想をもとに何冊か読んだことがあるが、去年も何年か前もみごとにはずれ、やっぱり「果報は寝て待て」だと思ったものだ。それなのに性懲りもなく、風の噂を信じて本書に手を出してしまった。
 といっても、これはもともとオレンジ賞のショートリストを見て、知らない作家の知らない本ながら、カバーが魅力的というだけで飛びついた「見てくれ買い」。この方法、ぼくの経験ではかなり打率がいいはずなのだが、このところ三振をすることが多く、今回もまんまと釣り球に引っかかってしまった。
 これはまずテーマが平凡だ。「古き佳き時代、青春、そして戦争の記憶をタペストリーのように綴ったノスタルジックな小説」という昨日のレビューの書き出しだけで、ああ、あの手の話ね、とピンとくるだろう。今年読んだものにかぎっても、ルワンダ虐殺を扱った Naomi Benaron の "Running the Rift" が思い出されるが、あちらのほうがずっとおもしろかった。
 というのも、絵画や人形を通じて「個人および国家の歴史が物語られる」という新味こそあるものの、絵を直接ながめるのと、絵の説明を字で読むのとでは大きな差がある。文字どおり隔靴掻痒の感がありパンチ不足。そういえば、やはり今年読んだ Philippe Claudel の "Brodeck" にも絵の話が出てきたけれど、あちらのほうが人間性の核心を衝いたコワイ絵でしたね。あの絵はホロコーストの象徴と言ってもいいだろう。
 結論。本書がブッカー賞のロングリストに選ばれることはないと…いやいや、断定するのはやめておきましょう。