ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Hay の "Late Nights on Air"(2)

 本書がカナダで最も権威のある文学賞、ギラー賞(The Scotiabank Giller Prize)の07年度受賞作であることは前から知っていたが、ときどき検索してもハードカバーしか出ていないようなので注文を見合わせていた。それがたまたま、この春ペイパーバック化されていることを知り、今ごろになってやっと読んだ次第。毎度の話だけど、遅れてるなあ。
 前半はとにかく、「微妙な感情の揺れ動きだけで物語が進行」することにワクワク、ドキドキ。人間の心の動き、そのからみ合い、すれ違いがいかに面白いものかと再認識させられた。べつに事件らしい事件が起きなくても小説が小説として成り立つ好例で、本書は Elizabeth Hay の5作目ということだけど(旧作はすべて未読)、ずいぶん芸達者な作家だと思う。
 後半もすばらしかった。圧巻はやはりカヌー旅行で、これは前半の心理劇と違って明らかにアクション篇だが、ここでも自然描写に混じって繊細な心の動きが読みとれる。美しく厳しい自然と立ち向かううちに、参加者がそれぞれ自分の人生に思いを馳せ、旅のあとの生き方を決める。こんな話は理屈ぬきに好きだ。
 巻末が近づいても相変わらず先が読めなかったが、後日談で締めくくり。面白いのは、その出だしで全体の冒頭と同じく、人の声が重要な役割を果たしている点だ。男が女の、女が男の声を聞いて惹きつけられる。とりわけ、十年前に思いを寄せた相手の声をラジオでたまたま聞くという後日談の設定には、年とともに涙もろくなっているぼくはイチコロだった。
 その先も紆余曲折があり、とにかく後半ほど胸キュン。「人は結局、永遠の思いを秘めたまま現実を生きるものなのか」などと、何だか訳のわからない感想をレビューに書いてしまったが、本書における人間の出会いと別れは、ぼくにはそんな言葉でしか要約できなかった。