ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joseph Boyden の "Through Black Spruce"(2)

 一夜明けて本書をふりかえると、これは一種のミステリにふくめてもいいかな、という気がする。昏睡状態のウィルに何が起こったのか、妹を捜しに行ったはずのアニーが今はなぜウィルの看病をしているのか、妹の身に何があったのか…といった謎が次第に解き明かされる過程が大きな興味のひとつだからだ。その答えを知りたくてどんどんページをめくる。つまりこれは雑感にも書いたように、「基本的にはストーリー展開の面白さで読ませる作品」である。
 それゆえネタばらしは禁物だが、差し障りのないところで本書の魅力を述べると、「原始の森でくりひろげられる冒険アクション」篇。これには子供心をくすぐられる。テンやビーバー、ガンなどを捕獲したり、熊とにらみ合ったりする場面はシートン動物記を思わせるし、ウィルがカナダ北部の無人島で何ヵ月も暮らすくだりは「ロビンソン・クルーソーばりのサバイバル物語」。『宝島』や『十五少年漂流記』などを愛読した元冒険好き少年にはこたえられない一節で、こんな小説を読むのは Tim Winton の "Dirt Music" 以来だ。
 そこに「もっとも危険なゲーム」が加わる。…などと、ギャビン・ライアルの傑作冒険小説のタイトルでぼかしたのはネタばらしを避けたからで、この「ゲーム」のおかげで、ウィルとアニーの「二人の身に迫る危険にハラハラさせられる」ことは間違いない。
 以上は文芸エンタメ系のノリだが、ウィルの飲み仲間や初恋の相手、アニーの友人の看護婦や、彼女の「保護者」としていつも急場を救うインディアンの青年など、主役以外の人物も存在感があり、彼らとの心のふれあいも読みどころのひとつだ。最後はいささか出来すぎかもしれないが、大いに満足できる作品であることには変わりない。どこかもう版権を取っている出版社がありそうだな。