ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joseph Boyden の "Through Black Spruce"(1)

 ああ面白かった! これはギラー賞の昨年の受賞作だが、本書の前に読んだ Elizabeth Hay の "Late Nights on Air" と同様、カナダで最も権威のある文学賞という評判に恥じない会心の出来。昨日の雑感で試みたへたくそな要約を踏まえて、さっそくレビューを書いておこう。

Through Black Spruce

Through Black Spruce

  • 作者:Boyden, Joseph
  • 発売日: 2009/03/12
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆☆] カナダ先住民のコミュニティを背景に、原始の森でくりひろげられる冒険アクションと、都会の危険に満ちたミステリタッチの物語が並行。ふたつの流れを通じて、家族愛と友情のすばらしさが謳いあげられた秀作である。主な舞台はカナダ北部、オンタリオ州湾岸の町。ふたりの先住民が交代でモノローグを続ける。ひとりは元パイロットの猟師ウィル。なぜか昏睡状態にあり、意識を失うまでのいきさつを無意識のまま、ふたりの姪アニーとスザンヌに語りかける。狩猟、暴行、そして殺人。手に汗握るハードアクションの連続だが、少年時代からの回想のうち、家族とのつらい別れなど、しんみりさせられる場面もある。もうひとりの語り手はアニー。ウィルの意識回復を願いつつ、最近の出来事を枕元で聞かせる。妹スザンヌの不可解な失踪、その行方を追ううちにトロントやニューヨークで遭遇した犯罪、妹と同じくモデルとして味わった快楽。方やロビンソン・クルーソーばりのサバイバル物語、方や華麗な都会生活というコントラストが鮮やかで、両者がやがて交わるのは定石どおりだが、どちらも全貌の見えてくる過程がサスペンスフル。ウィルとアニーの身に迫る危険にハラハラさせられる。そこへ救いの手を差しのべる相手とのハートウォーミングなふれあい。とにかく物語性抜群の文芸エンタテインメントである。