ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Lacuna”雑感(2)

 このところ計画停電が中止になり、わが家の生活もまあ平常に戻ってきたが、今日は年度末の大晦日。明日入社式をひかえた娘が入寮のため家を出ていった。「魔女の宅急便」のキキのお父さんの心境だ。
 一方、本書のほうはさほど進んでいない。今読んでいるくだりの舞台は1938年のメキシコシティーで、前回以後、「世界史が飛びこんできた」ような事件が発生したものの、まだまだ「長大なイントロ」の延長のような感じでクイクイ度が足りない。
 ともあれ、その事件とは、主人公の今や青年がなんと、トロツキーの秘書になったのである。トロツキースターリンとの権力闘争に敗れ、ソ連から追放されたあとメキシコに亡命、彼の地で暗殺された一件は、無知なぼくでもさすがに知っていたが、メキシコでの亡命生活にかぎらず、トロツキーが登場する小説を読むのは初めてだ。そこで最初は、よし、これから本番かと思ったのだが、相変わらず悠々たる筆運びである。
 青年は当時のメキシコの有名な画家、ディエゴ・リベラの家にコック兼秘書として住みこんでいたところ、トロツキーがその家に滞在するようになる。やがてトロツキーはディエゴの妻、フリーダ・カーロと関係…などという愉快なエピソードもあるのだが、どうもまだ本番前のダイグレッションのような気がしてならない。
 なお、ぼくは知らなかったがディエゴ、フリーダとも実在の人物で、どうやら不倫も実際にあったことのようだ。そのあたりの史実に詳しい読者なら、じつは青年がディエゴとフリーダの夫妻に出会ったところからニヤニヤしながら読んでいるのかもしれない。
 ともあれ、前回は書かなかったが、本書の序盤はメキシコ革命が背景にあると言えば言えるものの、それが主人公の運命を左右しているわけではない。同様に、トロツキーとの接触も、この先はべつとして、今のところまだ主人公の人生に大きな意味を持つものではない。これはやはり、「悠々たる筆運び」をじっくり楽しむべきなんでしょうね。