ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Cutting for Stone”雑感(2)

 いざ取りかかってみると、これはたしかに長い! 朝のバスや電車の中では珍しくすいすい読めるのに、帰りになるとカクっとスピードが落ち、家ではこれを書く前なんぞ、こっくりこっくり。そんな調子でなかなか進まず、本書の長さ、分厚さを痛感している。
 前回と変わった点は、Thomas と Mary が勤務している病院の産婦人科医 Hema が新たに主要人物として加わったことで、彼女の娘時代からのエピソードが Mary の出産シーンと交互に出てくる。Hema は体格もいいが性格的にも女傑そのもので、軟弱な男どもをギャフンと言わせるところが面白い。一方、Mary は難産で瀕死の状態。休暇中の Hema に代わって、外科医の Thomas が馴れぬ手つきで悪戦苦闘している。どちらの話もユーモラスで、生きのいい活発な文体と相まって快調そのもの。これから先も大いに期待が持てそうだ。
 大長編の序盤で楽しめることはいろいろあるが、ストーリーとは別に、心に響く言葉に出くわしたときの喜びもそのひとつだろう。'....having a child was about cheating death. Children were the foot wedged in the closing door, the glimmer of hope that in reincarnation there would be some house to go to....'(p.64) という一節はどうか。人間はいつか必ず死ぬ。が、自分の子供はたしかに自分の分身である。それゆえ、子供を通じて自分は生まれ変わる…。ときどき死の影が頭をよぎる年齢になったぼくは、しばらくじっと考えこんでしまった。