いささか旧聞に属するが、去る3月27日、PPrize. Com による毎年恒例のピューリッツァー賞最終予想が発表された。これを見ると、最初の予想から6作ほど入れ替わっているが、上位の作品はほとんど動いていない。
ぼくの予想というかイチオシは、Adam Johnson の "The Orphan Master's Son"。この秀作をもうそろそろ、ちゃんと評価してほしいものだ。個人的な好みをいえば、Dave Eggers の "A Hologram for the King" がゴヒイキ。My Best と My Favorite、どちらが選ばれても異存はない。
さて、どうなりますか。とりあえずリストを紹介しておこう。既読のものについてはレビューを再録しておきます。

Billy Lynn's Long Halftime Walk: A Novel
- 作者: Ben Fountain
- 出版社/メーカー: Ecco
- 発売日: 2012/11/27
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- 作者: Dave Eggers
- 出版社/メーカー: McSweeney's
- 発売日: 2012/06/19
- メディア: ハードカバー
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[☆☆☆★★★] 「俺は誰だ」「私はなぜここにいるのか」――だれでも一度は駆られる疑問かもしれないが、本書はこの定番の問題をきわめて現代的に、かつコミカルに扱った秀作である。昔は羽振りがよかったものの、いまや自己破産寸前の経営コンサルタントが起死回生をかけ、サウジ国王にホログラムによる会議システムを採用してもらおうと、彼の地で建設中の大都市に乗り込む。が、国王はいっこうに姿を見せず、プレゼンテーションは延期につぐ延期。そもそも都市建設そのものが進んでいない。このカフカ的状況が、こっけいなエピソードや爆笑物のジョークもまじえて描かれると同時に、主人公の失敗したビジネスや破綻した結婚生活の回想、健康への不安、一人娘への思いなどがフラッシュバック。そこから孤独な現代人の実存の不安がうかびあがる。この笑いとシリアスな問題の配合が絶妙で、どんどん先を読みたくなる。濡れ場もあって楽しんでいるうちに、ふと流れこんでくる人生の悲哀にしんみり。虚無の深淵に頭をかかえこむ。人生は不条理で、かつ、おもしろおかしい。おかしいから不条理なのか、不条理だからおかしいのか。そんなラチもないことを考えてしまった。英語は標準的で読みやすい。

- 作者: Louise Erdrich
- 出版社/メーカー: Harper
- 発売日: 2012/10/02
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[☆☆☆★★★] コアにあるのは少年の通過儀礼だが、20世紀末に近い当時、ネイティブ・アメリカンが法律的にしいられていた差別の現実を踏まえたものだけに、通常の青春小説とは異なる重みがある。舞台はノースダコタ州の田舎町。居留地に住む少年ジョーの美しい母親が何者かにレイプされ、開巻からいきなり息づまるような緊張の連続だ。やがてジョーは友人たちともども事件の解明に乗りだし、さながら少年探偵団のようで楽しい。傷ついた母親をめぐる重苦しさと少年たちのドタバタぶり、ジョーの少年らしい正義感と、巨乳の叔母に示す性的関心といったコントラストがじつに絶妙。祖父が眠りながら物語る部族の伝説や、先住民の伝統的な生活風景、マジックリアリズム的な逸話も混じり、重層的な作品に仕上がっている。家族の愛、少年たちの友情、人間同士の信頼をそれぞれモチーフにしたエピソードが複雑にからみあっていくうちに、やがて厳然たる差別の現実が示され、ジョーは驚くべき通過儀礼の行動に走る。これが最大の山なのだが、その後、恋愛がからんで定番の青春小説らしくなりボルテージが下がったのが残念。英語は語彙的にはむずかしめだが緊密な美しい文章である。

The Orphan Master's Son: A Novel (Pulitzer Prize for Fiction)
- 作者: Adam Johnson
- 出版社/メーカー: Random House Trade Paperbacks
- 発売日: 2012/08/07
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- 作者: Junot Diaz
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2012/09/01
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[☆☆☆★★] 男が女と出会って関係し、そして別れる。よくある話だが、これはアメリカに住むドミニカ移民の男の失恋遍歴集。ユーモアをまじえた軽妙で活発、テンポのいい文体にまず惹きつけられる。主人公が読者に語りかけたり、逆に主人公を2人称で呼んだりすることで、失恋につきものの感傷が適度に抑制され、さりげなく描かれる別れのつらさに鋭いえぐりがある。ほかにも、若死にした兄との陽気なバトル、常夏の国から出てきた当初のカルチャーショック、移民生活や人種差別の現実など、いろいろな話題がいろいろな恋愛といりまじり、同じ主人公の連作短編集といったおもむきだ。読み進むうちに、貧しい移民の少年が才能を認められ大学を卒業、作家活動のかたわら大学で教鞭をとる、という大きな人生の流れが見えてくる。いわばサクセス・ストーリーのはずなのに、ふりかえればほろ苦い思い出ばかり。それを軽くあっさり、おもしろおかしく綴った佳作である。なじみの薄い口語や俗語にくわえてスペイン語も頻出するが、文脈から推測できる場合も多いので鑑賞には困らない。

- 作者: Lydia Millet
- 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
- 発売日: 2012/11/05
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- 作者: Kevin Powers
- 出版社/メーカー: Little, Brown and Company
- 発売日: 2012/09/11
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[☆☆☆★★] イラク戦争の最中、戦友を亡くした青年兵士の回想記。イラク北西部の街周辺でおこなわれた戦闘の模様と、訓練中から除隊後までの話が交互に進む。即物的に淡々と、あるいは相当な迫力をもって戦争の現実がえがかれる一方、時には意識の流れに近い技法を駆使しながら、青年兵の脳裏にうかぶ数々の思いが綴られる。砲弾が炸裂して死者が出る場面などリアルで息をのむばかりだが、基調にあるのは戦争の不条理や悲惨さで、あえて不謹慎な言い方をすれば〈想定内〉。死んだ戦友の母親と青年兵のやりとりも、痛切ではあるが定石どおり。帰国後、ふと戦場の記憶がよみがえり、亡き戦友への思いに胸をえぐられるところもまたしかり。つまり、これはイラク戦争が題材である点を除けば、どの場面をとっても従来の戦争小説とほとんど変わらない。それどころか、イラク戦争と聞いて思いうかぶイメージどおりの作品に仕上がっている。ただし、緊張感のある簡潔で、時に芸術的に入り組んだ文体は大いに評価したい。難語も散見されるが英語は総じて読みやすい。

- 作者: Richard Ford
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Everything Begins and Ends at the Kentucky Club
- 作者: Benjamin Alire Saenz
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Blasphemy: New and Selected Stories
- 作者: Sherman Alexie
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- 作者: Claire Vaye Watkins
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- 作者: Jonathan Tropper
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The Dog Stars (Vintage Contemporaries)
- 作者: Peter Heller
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- 作者: Thomas Mallon
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