ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Auster の “Sunset Park”(2)

 ぼくはべつにポール・オースターの熱心なファンというわけでもないが、アマゾンUKの新刊ニュースで彼の新作が出ることを知り、ふだんはペイパーバック・リーダーのくせに食指が動き、日本のアマゾンに予約注文していたら、どういうわけか正式な発売日以前に届いてしまった。
 オースターの作品を読むのは去年の "Invisible" 以来だが、雑感にも書いたとおり、同書はけっこう面白かった記憶があるのに内容はすっかり忘れてしまった。この "Sunset Park" も何だかそんな運命をたどりそうな予感がする。
 というのも、ぼくにとってオースターといえば、何と言っても "The New York Trilogy" が強烈に心に残っているからで、ほかにも初期作品をいくつか読んだけれど、熱にうかされたような読後感という点ではやはり "Trilogy" がいちばんかな。で、ずいぶん久しぶりに接したのが "Invisible" だったわけだが、面白かったのに中身を忘れているところからすると、"Trilogy" ほどの熱気は感じられなかったのではないか。
 この "Sunset Park" にも同様のことが言えそうである。たしかにクイクイ読めて面白いのだが、オースターは本書を書き流したとまでは言わないけれど、少なくともけっこう楽しみながら執筆したのではないか、と思われる。だからとても楽しい作品に仕上がっているし、「いまを生きる」のが人生だという最後のメッセージもなかなかいい。が、あの昔のような熱気までは伝わってこない。ほんとうにうまい作家だなあと舌を巻きながら読んだのだが、それでもオースターとしては二塁打くらいの出来ばえのような気がする。
 …おたく、何もわかっちゃいないね、と熱心なオースター・ファンから座布団が飛んできそうなことを書いてしまった。本書の内容については昨日のレビューで言いつくしたので、今日は蛇足もいいところだ。